「怨霊と鎮魂の日本芸能史」 井沢元彦 (檜書店)
久々に怨霊信仰についての本です。図書館で見つけてタイトルだけで借りてきてみたら、中身は殆ど「平家物語」と平安時代後期についてのことでした。なんだかタイムリーだ。
今作は「能」に関する雑誌等で連載や解説の為に書かれたものだったそうですが、能楽や平曲を中心とした芸能史をまとめることで、あまり意識をされてこなかった日本史の大きな部分を語れるのではないか、とのこと考えで出来たそうです。
確かにそうだ。「○年に○○が起こった」という出来事自体は記録などで分かっても、そこにいたる人間たちの精神的なものが分かっていないと理解も半分になる、というのは分かる気がします。
怨霊信仰は、日本人の本来の信仰である。仏教は本来、「怨霊」を認めないものであり、日本人は仏教を「怨霊調伏」の為の宗教に作り変えた。前書きにそういったことが書いてありましたが、この辺のことは去年の「たけしの教科書に載らない(略)」でもやってましたね。でも、なんとなく日本人にこの「怨霊信仰」が今も根付いている、というのは分かる気がするのですよ。日本人がどこか自虐的なのは、ひょっとしたら古代の昔からの「怨霊信仰」のDNAのせいだったりしてな。
そんなわけで。まずは日本は「怨霊信仰」の国であることの説明から入ります。それが平安時代から始まったのは誤りだとし、その根拠が出雲大社の存在であるとしています。この定義は、私もQEDシリーズ(高田崇史)を読んできたので、すんなり納得。あのシリーズは、とりあえず神=怨霊くらいに認識してないと読めない(笑)。出雲大社が日本一高い建築物であった証拠が出るまで、学者たちは論じることさえしていなかったようですが(ホントかどうかは知らない)、著者はそれを語るには「国譲り」という勝者と敗者の歴史があったことを外せないことと書きます。私は学者じゃないんで、学会でどうとか全然関係ないので、割とその説、信じてます。大体、大国主なんて、いかにも大国の王という名前を持ってる人が、「国、譲れ」とか言われて「はい、どうぞ」なんて簡単に譲る方が不自然だよな。「出雲国風土記」でどう書かれてるのかが問題なんでしょうけど、そこまで手を出したことはない・・・。確か、日本書紀とかとは、結構展開違うらしいですよね。
ま、本書のメインは「平家物語」なので、そこの追求は著者の別作を読めばいいらしいのですが(笑)。
そして、「源氏物語」も実は鎮魂の物語だと指摘します。歴史上知られているように、当時の藤原氏は源氏を汚いやり方で追い落としています。その為の鎮魂の物語だと言うのです。だからこそ、道長は「藤原氏に勝利する源氏」の物語を書く紫式部を支援したという。
おおー、真実かどうかは分からないけど、そういう側面もあったかもしれないリアリティのある説だ!と正直思った。昔から思ってはいたんですよね~、いかにも藤原氏がモデルだと分かっているのに、どうして皆、喜んで読んでたんだろうと。そういう説明がつくなら、皆がありがたがって読んだのも分かる気がする。最も、更級日記の作者みたいのもいるから、普通に「かっこいい貴公子」が読みたくて読んでた女子もいただろうけど(笑)。
そうして時代は「平家物語」を生み出します。「平家」の凄さは琵琶法師という手段を使って、字の読めない民衆にも浸透させたことだそうです。そういや音楽に乗せて伝える方が効果的だって何かの番組で言ってたな。そしてもちろん、その行為には仏教の布教が根底にあるわけで。
古代に神の為に始まった芸能は、やがて平曲になり、能になり、歌舞伎となって広がっていきますが、そのどれもが怨霊の鎮魂という側面があるといいます。江戸時代の歌舞伎となると、そこら辺の定義は薄れてきているのかもしれませんけどね。でも、著者曰く、鎮魂の芸能の系譜は踏んでるそうです。その理由がまた面白かったですね。
本も後半部に入ると、芸能そのものよりも源平の時代についての考察が主になります。現代人はどうしても結果を知っている目線で歴史を見てしまいがちですが、それを取り払わないと歴史の理解は難しい。最近の大河ドラマは、現代の目線に頼りすぎなところが、ドラマをつまらなくしてたんですけど、さて今年はどうなるか・・・。
それはともかく、武士がどのように朝廷から権利を、そして政権を勝ち取っていったかが後半に書かれていきます。平家の「武家政権」としての失敗、続く木曽義仲の失敗を、じっと見ていた頼朝が、同じ徹を踏まないように、行動していく様が綴られていくので、分かりやすくて面白い。最も、頼朝についてはバックについてる北条氏の存在がでかいとは思うんですけど。朝廷に武力が無かったということに、ちょっとビックリしたですよ。そうか、武士を使ってはいても、公家は「軍」のトップではなかったということですね。武士団はあくまで、武家の棟梁の下に付くもの。指摘されてみれば、学校でも習うことではあるんだけど、どうも繋がらないんですよね。単語や年表ばかりが重視されるせいなのかなあ。
しかし、3代で滅ぼされたとは言え、この源氏から長い長い武家政権がスタートするのですなー。ご先祖たちが権利を得る為に朝廷と戦ってきた武士たちが、幕末になったら逆の行動を取り始めるのは、歴史の皮肉なのか必然なのか・・・。
著者は最後にもう一度、「日本史の理解の為には怨霊信仰は不可欠である」ことを強調していました。そればっかで見ると、また見えないものが出てきてしまうとは思うけど、頭に置いておいた方が理解は深まるでしょうね。すらすら読めて面白かったです。平安末期の歴史についても沢山記述されてるんで、うまいこと大河の予習になりました(笑)。
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